2018年10月24日更新
個人事業主の社会保険制度の基礎知識!加入ルールや手続きなど解説!
個人事業主にとって社会保険制度をうまく活用することは、経営を軌道に乗せるためには非常に重要なことです。この記事では社会保険の加入手続きや経費算入の仕方など、個人事業主が日々の事業運営上必要とする情報を幅広く紹介していきます。

目次
- 個人事業主は社会保険の全体像から把握するべき
- 個人事業主が社会保険制度を理解する意義
- 個人事業主と社会保険の関係は大きく2パターン
- 個人事業主は「届出」をすることで社会保険に加入
- 個人事業主が従業員に提出してもらう社会保険関連書類
- 労働保険関係書類の手続き
- 雇用保険関係書類の手続き
- 健康保険・厚生年金関係書類の手続き
- 個人事業主が知っておくべき給与計算と社会保険料の関係
- 「標準報酬月額表」で社会保険料を算出
- 民間保険は個人事業主のセーフティネットになる
- 共済制度で老後不安や経営危機に備える
- 国民年金基金は個人事業主の社会保険を補う制度
- 社会保険の掛金は個人事業主にとって所得控除の一種
- 経費における個人事業主が得られる社会保険のメリット
- 商工会は個人事業主の経営全般に渡る力強い味方
- 社会保険制度の賢い活用で個人事業を軌道に乗せる
個人事業主は社会保険の全体像から把握するべき
個人事業主はサラリーマンと異なり、社会保険に関する手続きをすべて自分で行わなければなりません。そのため加入手続きや経費との関係などで困惑する人も少なくありません。しかしその全体像を理解してしまえばそれほどむずかしいものではないのも事実です。以下に紹介する情報を順に消化していくことで、経営の基盤づくりをしていきましょう。
個人事業主が社会保険制度を理解する意義

個人事業には、法人と比較して開業にあたっての費用が少なくてすむ、諸手続きが簡単などのメリットがありますが、同時に社会的信用度が低い、従業員を雇用しにくいといったデメリットも存在します。個人事業主が社会保険制度を正しく理解する意義とは、これらのデメリットをなるべく小さくする、つまり個人事業の「弱点を補う」ことといえます。
個人事業主が提出しなければならない書類

個人事業を始める際や従業員を雇用したときなどにはいくつかの書類を提出する必要があります。個々の書類に関しては後述しますが、これらは大きく分けて「税金」と「雇用」に関するものになります。社会保険制度と関連するものは主に雇用関連の書類になりますが、掛金の経費算入や所得控除など、税金に関連する書類もありますので注意が必要です。
個人事業主になるには個人事業の開業・廃業等届出書の提出から

個人事業を始める際は「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)に開業した日付や事業概要などの基本的な事項を記入して提出します。この書類の写しは社会保険関連の書類を提出するときに添付書類として提出するものでもあります。非常に重要な書類ですので、書き方がわからないという方は税務署で書き方をおしえてもらうのも一つの方法です。
個人事業主と社会保険の関係は大きく2パターン

先述のように個人事業主は社会保険への加入手続きをすべて自分で行わなければなりません。これは労働保険などの従業員に対する社会保険だけでなく、健康保険・年金といった個人事業主自身に関する保険の加入手続きも含みます。以下ではまず従業員関連の社会保険制度を紹介し、その後個人事業主自身にまつわるものを見ていきます。
個人事業主は「届出」をすることで社会保険に加入

従業員関連の社会保険加入手続きは「届出」をすることによって行います。届出とは、一定の行為を行う際に所定の行政機関に届出書を提出することをいいます。提出先は書類によって異なり、社会保険関連では主に労働基準監督署、ハローワーク、年金事務所などの機関になります。
社会保険新規加入手続きをしたいのだけど、なんとなくしかわかんない(´・c_・`)無料で相談できる市の窓口とかないかなあー。とりあえず、勉強しなきゃ
— もか(えり) (@maimai_petitt) February 19, 2018
すべての書類に届出義務があるわけではありません。しかし任意のものであっても税制上の優遇などがあることも多く、届出を提出することによるメリットは見逃せません。ここで紹介しているものはもちろん、ほかにも大切な届出はたくさんありますので、書き方がわからないというような壁にぶつかったときは士業などの専門家に相談してみましょう。
社会保険関連書類作成の際には必ず「控え」を保存

届出書類のコピーを「控え」として保存することが大切です。申告書類も同様ですが、控えは事業運営の際に証拠書類としての役割を果たします。たとえば金融機関から融資を受ける際、確定申告書の控えを求められることがあります。そのほかにも控えは取引先開拓などの際にも必要になることもあるので、届出書類と一緒に受領印をもらっておきましょう。
個人事業主が従業員に提出してもらう社会保険関連書類
社会保険の加入手続きではもう一つ、忘れてはならないポイントがあります。それは採用時に従業員からいくつかの書類を提出してもらうということです。年金手帳や健康保険被扶養者(異動)届、雇用保険被保険者証(前職分)などが主なものになります。前職や扶養家族の有無などにより必要書類は異なりますので漏れのないようにしましょう。
事前説明では社会保険についての情報も伝えておく
従業員採用時には「事前説明の徹底」に努めましょう。採用後に個人事業主と従業員の間で生じるトラブルの原因の多くは、面接時・採用時の説明不足による「認識の違い」です。特に社会保険に関するものは給与額に直接関係するだけに、正確な情報を提供することは必須といえます。相互理解を促進して不要なトラブルを未然に防ぐことを心がけましょう。
労働保険関係書類の手続き

ここからは具体的に各書類の中身を確認していきましょう。労働保険関連書類としては「労働保険保険関係成立届」があります。これは従業員(パートを含む)を雇用したときに必要になる書類で、労働保険料を納める義務が生じたことを通知するものです。提出先は労働基準監督署になります。
労働保険概算保険料申告書

労働保険保険関係成立届を提出した後に、「労働保険概算保険料申告書」の提出も必要になります。これは年間の労働保険料納付額の概算を申告するための書類で、こちらも提出先は労働基準監督署です。申告書作成の際に必要な保険料の算出は、厚生労働省のホームページに掲載されている保険料率表を参照して行います。
雇用保険関係書類の手続き

従業員を雇用したとき(パート・アルバイトは一定の条件あり)には、雇用保険に加入させる手続きも必要です。その際に作成する届出書が「雇用保険適用事業所設置届」です。この書類の提出の際には労働保険番号が必要になりますので、前もって労働保険保険関係成立届を提出して労働保険番号を入手しておく必要があります。提出先は公共職業安定所です。
雇用保険被保険者資格取得届

もう一つの雇用保険関連書類である「雇用保険被保険者資格取得届」は、雇用した月の翌月の10日までにハローワークに提出します。この書類は、複数の従業員を雇い入れる場合は人数分記入して提出しなければなりません。記載事項として「事業所番号」がありますが、これは雇用保険適用事業所設置届を提出すると発行されます。
健康保険・厚生年金関係書類の手続き

健康保険や厚生年金制度への加入手続きは、「適用業種」で常時5人以上の従業員を雇用している場合に、届出を提出して行います。また適用外業種の場合でも従業員数が5人以上でその過半数の同意があれば、任意に加入することができますので、業種によらずおさえておくべき知識となります。
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— Carecle (@carecle) October 4, 2017
提出するものには「健康保険・厚生年金保険新規適用届」や「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」などがあります。そして場合によっては「健康保険被扶養者届」の提出も必要になりますが、それがどのようなケースなのか、以下で確認してみましょう。
被扶養者と社会保険の関係

「被扶養者」とは、従業員本人の家族でその従業員に養われている人を指します。被扶養者として認定されれば従業員に適用される社会保険がその家族にも適用されます。そして適用を受けるための書類が「健康保険被扶養者届」になります。認定条件には年間収入の上限などがありますので、従業員に適切な情報を提供することが求められます。
提出する際の注意点

上記の書類を提出する際、住民票や年金手帳などが必要になる場合がありますので、事前に年金事務所で確認を取ることをおすすめします。また、提出の期限は従業員が5人以上になった日から5日以内となっており、記入した届出書を事務所の区域を管轄する年金事務所に直接持参することで行います。
適用業種と適用対象者

常時5人以上の従業員を雇用している場合に社会保険に強制加入となる適用業種は、法律で16業種が定められています。運送業などが代表例ですが、詳しくは健康保険法第3条第3項に記載されています。反対に適用外業種としては、第1次産業や飲食業などがあげられます。適用対象者には正社員のほか、一定の条件を満たしたパート・アルバイトも含みます。
個人事業主が知っておくべき給与計算と社会保険料の関係

社会保険料は給与計算の際に控除額として計上します。給料支払明細書には支給総額と所得税の控除額に加えて、健康保険・厚生年金・雇用保険料の控除額の明細を示すよう法律で定められていますので、それぞれの保険料を算出する必要があります。たとえば雇用保険料であれば、総支給額×0.005(一般の事業)が従業員負担額です。
従業員の年末調整は個人事業主の義務

「年末調整」とは概算で納めていた税金の額と、所得控除などを加味した正しい税額を照らし合わせて過不足を調整する作業です。この正確な税額を算出するために、従業員に「給与所得者の保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」などの資料を提出してもらいます。年末調整は従業員を雇う事業主の義務ですので、ここであわせて確認しておいてください。
「標準報酬月額表」で社会保険料を算出

個人事業主が従業員の給与計算をする際に必要になる知識として、「標準報酬月額表」についても解説しておきます。これは日本年金機構が作成している報酬月額の等級表のことで、この表に報酬月額を当てはめると社会保険料納付額がわかるようになっています。毎年各事業者に送付されてくるものですので、大切に保管し給与計算の際に利用してください。
民間保険は個人事業主のセーフティネットになる

ここからは個人事業主自身を守る社会保険制度について見ていきます。個人事業主が加入する国民健康保険や国民年金は、会社員が加入する保険に比べ支給額が少なくカバーする範囲も狭いのが現実です。そこでまず検討されるのが「民間保険」へ加入し、傷病や事故などで働けなくなった場合のセーフティネットとして生活を保障することでしょう。
共済制度で老後不安や経営危機に備える

民間保険の契約と同様に検討に値するのが「共済」への加入です。共済とは、組合員同士の相互補助による保障制度をいい、民間保険と比べると保証額上限が低く、プランもそれほど多くはありませんが、掛金が安く変動がないといった利点もあります。以下に独立行政法人中小企業基盤整備機構によって運営されている代表的な共済制度を紹介しておきます。
小規模企業共済

業種ごとに定められた従業員数を下回ることで加入できるものに「小規模企業共済」があります。これは、退職や廃業をした際に、掛金総額に一定額を上乗せした手当金がもらえるものです。月平均支給額が6万円程度しかない国民年金を補うものとして幅広い業種の個人事業主に利用されています。掛金も500円単位で月額1,000円から可能です。
経営セーフティ共済

取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐものとして「経営セーフティ共済」という制度もあります。事業を1年以上継続していることなどの条件を満たせば加入できます。メリットとしては、売掛金回収が困難となった際などに受けられる貸付金が、無担保・無利子・無利息で最高8,000万円であることなどがあげられます。
国民年金基金は個人事業主の社会保険を補う制度

個人事業主自身のための社会保険制度として、「国民年金基金」という手段もあります。これは月々の年金保険料を上乗せすることで将来の受給額を会社員並みにすることを目的とするものです。興味がある方は一度国民年金基金のホームページでプランを確認してみるとよいでしょう。
社会保険の掛金は個人事業主にとって所得控除の一種

社会保険への掛金は所得控除というかたちで所得税額から差し引くことができます。たとえば「社会保険料控除」という科目で国民健康保険料・国民年金の全額、「小規模企業共済等掛金控除」では小規模企業共済等の掛金全額を控除できます。自宅兼事務所の場合、必要経費と保険料控除で按分計算する必要のある「地震保険料控除」など複雑なものもあります。
経費における個人事業主が得られる社会保険のメリット

事業を営む上で発生する費用はまとめて「経費」といわれます。経費は勘定科目で分類されますが、その中に「法定厚生費」という科目があります。これは従業員の社会保険料などに関する経費を分類する科目です。つまり個人事業主にとっての所得控除と同様に、個人事業自体においても「経費」というかたちで社会保険料を控除できる制度があるのです。
按分計算

按分計算とは、生活費と事業費を分けて、事業費に相当する部分を経費とする計算をいいます。これは、「経費」が事業運営に必要な費用のみを指すものであることから要求されているものです。決まった計算式というのはありませんが、たとえば家賃であればどれだけのスペースを事務所として使用しているか、といった観点で経費の額を算出します。
商工会は個人事業主の経営全般に渡る力強い味方

商工会は経済産業大臣の認可を受けた特別認可法人で、小規模事業者の経営を全般的にサポートする非営利組織です。この記事で紹介した社会保険制度に関する相談や、経費算入に関する事柄や確定申告・税額控除など税務・経理にまつわること、さらには開業前の事業計画書の作成や資金の調達方法まで、幅広く相談に乗っています。
加入で得られるメリットは大きい

上述した経営相談サービスを受けるためには、商工会に加入することが必要になります(起業に関する相談は未加入でも可能)。といっても6か月以上その地域で事業運営していれば加入でき、ひと月当たりの会費も1,000から2,000円程度ですので、ぜひ個人事業主の方は入会の検討をしてみてください。
社会保険制度の賢い活用で個人事業を軌道に乗せる
ここまで個人事業主にとっての社会保険制度に関する情報を幅広く紹介してきました。その加入が義務づけられているものはもちろん、経費算入や所得控除といった事業運営上のメリットを享受できることから、個人事業主が社会保険について正しく理解することは必須事項といえます。まずは全体像を把握することから「社会保険の活用」を始めていきましょう。